同期のノルマは300万
今思えば色々おかしかった。
元弊社は6月と12月にボーナスが支給される。
それを11月に辞めるか普通?
12月まで働いてボーナスパクってから辞めるだろ。
当時は特に疑問にも思わず、まぁクソブラックやし
一刻も早く逃げたいんやろなぁなんて思ってた。
テキトーな勘の割に気持ちの部分は正解だった。
その原因については外したけど。
ワイは岩下。
クソブラッククソ企業で働く美少女営業マン。
仕事は専ら客先の倉庫と現場に電材(平たく言うと電気が通るものなら何でも)をブチ込むこと。
あとは毎月20日のノルマの〆日に身も心もゴムにして所長の雷を心ゆくまで堪能するだけ。
すいませんと申し訳こざいませんが言えりゃ猿にでもできる仕事なンだわ。
大丈夫、飛んでくるボールペンはそのうち避けられるようになる。
お説教を聞きながら上司の鼻の毛穴を数えられるぐらいの余裕が出てきた12月だった。
「実は君の前任の営業マンに詐欺られたんや」
あー詐欺ねハイハイあれね事前に約束してた値段と実際に請求書にきた値段が違うってやつねハイハイハイそりゃこっちが悪いし申し訳ないけどそんな詐欺っていうほどでもないし良くある凡ミスかな。まぁ金のことやしワイが責任もって後で値引きしときますンゴねぇ〜
「請求書に記載された商品は事前の5倍の額のもあったし、何よりウチが頼んでないものまで請求に入ってる。しかも商品は届いてないんや。8年にも渡ってずっとこんな…これは詐欺や!」
あーそれは…イヤイヤイヤそんなことないでしょ流石にいくら前任がカス野郎でもそこまでは…
やってたんだなこれが。
調べた結果被害額は3年間で200万。
前任はその得意先を8年間担当してたから残り5年間分も調べあげて返済してほしいとのこと。
ウッヒョオ〜/(^o^)\オワタ
「信頼して頂いているお得意先様に…本当に申し訳こざいません。すぐに事務所に戻って事実確認のうえ改めてご連絡します。本当に申し訳こざいません。」
この時申し訳こざいません言いすぎて呂律回らんくなってた。そのくらい平謝り。もしゃもしゃせん!
金のチョンボはアカンやろ。
前任やらかしすぎてて草。
とりあえず帰って報告すっか
「あのなこの件はな、上に相談せんといてほしいねん」
なんでやねん
社長、薬物キメてはります?
今から帰って確認して今日の晩には茶菓子持って所長と土下座しに行くと思うんですけどォ〜
「この件は裁判沙汰にしようと思っててな。でも今他にも裁判沙汰抱えとってゴタゴタしとんねん。そんな中君らに動かれたら面倒やし今報告されたら困んねん。だからいつ上司に報告するかは俺が指示するから待っててほしい。君は悪くないし俺がその時なったら口添えしたるから。」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
それどう考えてもワイ殺されるやんけ!!!!
冗談でもよすやん!やめてやん!
「なんで俺が被害者やのに俺の言う事が聞けへんねん!報告して事務所にお前んとこの偉いさんでも謝りに来てみろ!真っ先にお前訴えたるからな!覚悟しとけよ!!」
えぇ…マジか…
帰って速攻上司に相談。(所長に言おうもんなら謝罪にすっ飛んでいくのは明らかだったから)
帰ってきたのは以下のお言葉。
「ほんならお前が200万消したったらええやん。黙ってて事態が明るみになったら普通にクビやろ。でもまぁお前の得意先やねんからお前が責任持てよ」
弊社のお金の帳尻合わせってのはとっても簡単!
売上に対する利益から不足分を補うだけ!!
弊社の利益率は約15パーセント
要するに不足金額の6.7倍の売上を稼ぐだけ!
200×6.7=………1300万
かくして毎月ノルマ2500万を背負う新入社員ルギア岩下が爆誕。地獄が始まったンだわ。
(ずっと1人で残ると気が狂いそうになるから音楽かけておかしボリボリ食いながら金の計算をした。1時にかかってくるアルソックからのラブコールが残業終了のお知らせ。)
「あ〜パナ〇ニックさん?今度デカい案件回しますからこないだのエアコンちょっと安くしてくださいよォ〜いやいやホントですって〜ホント頼むって…マジで…」
「あの得意先アホやしケーブルの見積もりクッソ高くしとくか…」
「社長ォ〜電気温水器買い替えましょうよぉ〜外観も白色でカッコいいですよぉ〜今ならぼくが黒ペンでアンパンマン描いて可愛くしときますからぁ〜」
「あ〜○○くん照明100個買うから30%ぐらい安くならない?100個も売れたんですかって今から売るんだよォ!!!やらなきゃ死ぬんだよォ!!!!」
「えへ、えへへ所長、今月ノルマダメでした…利益率が低すぎる?あ、アレはコロナのせいっスよォ〜え、コロナと利益率関係ない?えへへ、えへ、すいません…」
俺もう知〜らね!
3月に辞表出して退職は6月に決まった。
色んな幸運もあってか残り負債は50万。
もうちょい…行け行け押せ押せブッ潰せ
6月中旬、最後の減額処理が完了。
終わった…長かった…
社長は大喜び。えへへやったね。
それはそれとしてお前は死ね。
200万を盾に社長と交渉。
残り5年分の負債が判明して会社を訴える段取りになっても俺と後任の後輩くんの名前は一切出さないことを確約してもらった。
後輩くんに件の全容とその得意先を二度と訪問しないこと、何が起きても俺と前任に擦り付けて知らんぷりすることを言いつけて最後の仕事が終わった。
退職前日、所長から小さな封筒を渡された。
ノルマ達成のインセンティブだとか。
中には1000円分の図書券が入ってた。
大した2500万だよホント…次のハンタでも買お…
どう答えても正解じゃないならどうすればいいんだ?
答えは沈黙…本当にそれで合ってたのかな…
おわり。